仏師VS禅僧
仏師は美濃国の生まれであった。
ノミを旅の友として諸国を行脚しながら仏像を彫っていく。
特に仏門に入ったわけでもないが、木地師と生きていくには仏像を彫るのが一番良い。
流浪の仏師は、麓の村の人々にたのまれ千手観音を彫るために山中に篭っている。
仏像を作る良い木を見つけるためでもあった。

麓に近い祠の前で、仏師は村人からもらった山鳥の肉を焼いていた。
良い香りがあたりに漂っている。
その匂いにつられてであろう、旅の禅僧が仏師に近づいてきた。

「良い匂いでござるな・・」
禅僧は仏師に言う。
「あんたも食べるかな?」
仏師が言う。
「山鳥の肉ですな、いただきます」
そう言いながら、禅僧は肉を美味そうにかじった。

唐突に禅僧が自分の両手をパチリと合わせ、こう言った。
「今音を立てたのは、右手かな、左手かな?」
仏師は面食らったが、すぐにそれが禅問答だと理解した。
しかし、そのようなことにかまけているほど暇ではない。
「右利きなら右手、左利きなら左手が鳴ったのでしょうな」
仏師はいい加減に答える。

にやけながら禅僧が言う。
「そのように理屈で考えるのは未熟な証拠ですな」
見下すように禅僧が笑った。
仏師は癇に障ったが、事を荒立てるほど暇もない。
「そうですな、わしはまだ未熟者ですわ」
仏師は適当に言葉を濁した。

禅僧がなおも続ける。
「あんた、わしの弟子にならんか?悟りを与えてしんぜよう!」
傲慢な態度で禅僧が言う。
仏師は腹が立ってきたので、こう言った。
「もう一度両手を合わせて音を出してくださらんか?」

禅僧は言われるがまま、両手を合わせてパチンと音を出す。
すかさず仏師が、持っていたノミを禅僧の合わせた両手に突き刺した。
禅僧の両手は刺されたノミが貫通し、血がダラダと流れている。

仏師が言う。
「今痛いのは、右手かな?左手かな?」
禅僧は激痛でものも言えない。
仏師は続けて言う。
「肉を食うなど僧侶としてあるまじき所業。どうせ、あんたはエセ禅僧じゃろう!村人をたぶらかすためにここにきたんじゃろうが!」
仏師は、痛みで転げまわる禅僧の襟をムンズと掴んで、近くの崖から谷へと突き落とした。
禅僧は叫びながら崖を転がるように落ち、はるか下の岩に激突した。

「あのような輩は、多くの人々を煙に巻き苦しめる詐欺師じゃ!殺しておくのがよかろうて・・・・」
崖の下にパチンと手を合わせながら、仏師は言った。
「今なった音は、わしの右手でも左手もない、森羅万象すべてが鳴ったのじゃ!」
「南無阿弥陀仏!」

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