桃源茶屋の旗
江戸時代中期に禅問答が流行った。
修行中の禅僧は言うの及ばず、一般の庶民にまで禅問答が粋な趣味だともてはやされた。

旅人が峠の茶屋で団子を食べている。
茅葺の質素な茶屋であるが団子が美味いと言う評判で、中山道の旅人は必ずそこの茶屋の団子を食べ、また旅を急いだ。
杉の木の縁台に腰掛けながら、旅人は美味い団子をほおばりながら遠くの景色の山々を眺めていた。
縁台の上空には、茶屋の屋号である「桃源茶屋」の旗が風にそよいでいる。

旅人が団子を食べ終えほうじ茶をすすっていると、破れてぼろい袈裟を被った禅僧が近づいてきた。
「そこの旅のお人!」
禅僧は縁台でくつろぐ旅人に声をかけた。
「私ですか?」旅人は禅僧に向かって答えた。
名のある禅僧であろうか、禅僧はもったいぶって言う。
「そこの旗は、風が動かしているのか旗が動いているのか、どうっちかのぉ」
旅人はきょとんとして禅僧を見つめ返す。
禅僧は旅人が面食らっているのが面白そうに、また大げさに言った。
「そこの旗は、風が動かしているのか旗が動いているのか、どうっちかのぉ」
旅人は気味悪くなって、その禅僧を無視するように空をながめ、懐の財布をごそごそ捜す真似をしている。

禅僧は、なをもしつこく聞いてきた。
「そこの旗は、風が動かしているのか旗が動いているのか、どっちかと聞いておるのだ!」
旅人は、しつこさに負けたのか面倒くさくなったのか、いい加減に答えた。
「風が旗を動かしているのでしょう・・・」
禅僧は、その言葉を待っていたかのように言った。
「旗を動かせているのは、風でも旗でもない、あんたの心が動いているのじゃ!」
「はぁ・・・・・?」旅人はあっけにとられて唖然としている。

「どうじゃ、あんたの心が動いておるんじゃぞっ!」
禅僧が、ニヤニヤしながら勝ち誇った態度で旅人を見下している。
その勝ち誇った態度が癇に障ったのか、旅人は急に腹を立て言った。
「心が動いていようが、旗が動いていようが関係ねぇーぜっ!俺は団子食ってるだけだっ!邪魔すんなっ!」
そう言うが早いか旅人は禅僧の股間を思いっきり蹴った!

禅僧は悶絶し、地面にうずくまったまま動かない。
旅人は胸糞が悪くなった様子で、禅僧につばを吐きかけて峠の坂道を下っていった。

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