地獄でアマ〜ゴ!
飛騨の国の清流・宮川の上流で男はヤマメなどを捕って生計を立てていた。
今日も数時間の漁を終え、焚き火にあたっていた。
捕れたヤマメやアマゴは、麓の高山の町の魚屋に持っていく以外の残りは焚き火で焼いて食べるのが習慣だった。
男は、近くの森で切った竹を細く削り、竹串をアマゴの口に刺し、焚き火の周りの土に刺した。
川魚の香ばしい良い匂いが、谷に充満するかのようだ。
良く焼けたアマゴを口いっぱいにほうばりながら、男は思わず口走った!
「うまいっ!」
舌鼓を打つ!とはこのような味を言うのだろうと男は心底思う。
「ほら、おまえも食いたいだろう」
そう言いながら、いつでも連れ歩いている犬にも分け与えた。

焚き火の燃える枝がパチパチと音を立てるにに混じって、森の奥からうめき声が聞こえた。
「たすけて・・く・・れ・・」
ぼろぼろになり傷だらけの僧侶が、竹やぶの間に倒れていたのだ。
男は、急いで僧侶を焚き火の所に担いでいった。

川の水を、僧侶の口に含ませ、僧侶が落ち着くのを待った。

僧侶は、息絶え絶えに言った。
「私は、托鉢の帰り道に・・・山の道に迷ってしまいました・・」
漁師の男は、良い具合に焼けたアマゴを僧侶に差し出しながら、
「ほら、アマゴでも食べな!元気がでるぜっ!」
香ばしい良い匂いが僧侶の鼻腔をくすぐっている。

「・・ああ、ダメです・・私は殺生はできません・・・」
僧侶は仏門の修行僧らしく、肉食を拒否した。
「殺生ったって、もう死んで焼けてますぜ!」
男は、あきれて言った。
「魚を食べるなど、仏の道に反します・・・」
ゼイゼイ息を切らしながら僧侶が続けて言う・・・
「そのような、肉食をしたならば・・・地獄に落ちてしまいます」

「食べなきゃ、今すぐあの世は行っちゃうけどな・・」
男が、アマゴをほうばりながら言った。
「しかし、殺生の教えを破れば地獄へ落ち・・ます・・・」
その言葉を最後に、僧侶は息絶えた。

男は、両手を合わせながらつぶやいた。
「地獄が恐くて、こんな美味いもんを食えんとは!」
男は腹いっぱいにアマゴを食べ、残りを相棒の犬にやった。

「このお坊さんの亡き骸は、このまんまにしておくべ」
「狼のいい食いもんになるからな」
「狼は、肉食っても地獄にゃ落ちんよ!」
夕暮れになり、山々が赤く染まっていく。
男は、覚えたばかりの浪曲を口ずさみながら家路に帰る。

「馬鹿は死ななきゃ〜なおらなぁ〜い・・!」

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