剣豪伝説
武蔵は狂気の剣豪である。
老人子供も容赦なく殺し、罪悪感を抱くこともない。
また、勝つためには手段も選ばない無頼漢でもあった。
相手が自分より強いと感じれば、何人もの弟子に命じて、背後からめった刺しにすることもあった。
木の上から突然に飛び降り相手の意表をついて殺したり、あるいは、相手の刀より長い木刀で撲殺したりもする。
常識を無視したゲリラ戦法である。
とにかく、相手を殺すこと以外何も考えないサイコな剣豪である。
あるいは、殺すことに快感を覚えるパラノイアであったかもしれない。
武蔵は、その狂気ゆえに仕官することも出来なかった。
形式や上下関係や作法をを重んじる武家社会では、ゲリラ的剣法はそぐわないのだ。

そんな武蔵が或る日、若い剣術士から決闘を申しこまれた。
まだ子供のような、未熟な剣士である。
名もない剣豪であるが、逃げたとあっては経歴に傷がつく。

若い剣士は、だだっ広い草原を決闘の場所に選んできた。
剣士が広い草原を選んだのには訳があった。
武蔵の弟子たちが潜む場所がないように、背丈よりも高い萱の草や林が近くにない草原がよかったのである。
たとえ武蔵に勝ったとしても、弟子たちに殺されたのではたまったもんではない。

広々とした草原で、若い剣士と武蔵は決闘に及んだ。
空は曇天で、今にも雨が降り出しそうである。
かなり遠くの場所に林がある。
おそらくは、その辺りに武蔵の弟子たちが潜んであるのだろうが、決着をつけてから逃げる時間はある。

「武蔵、この日が来るのを待っていたぞ!」
若い剣士が言う。
「この若造が、わしに勝とうと思うのは百年早いわ!」
武蔵が笑いながら言う。

「これは敵討ちです!父はあんたに殺された吉岡一門の一人です!その他大勢の人間のことなんか覚えていないでしょうけどね・・・」
若い剣士が言う。
「そうよ!いちいち殺した人間など覚えておらぬわ!」
武蔵は笑いながら言う。

「武蔵さん、わたしは必ず勝ちますよ!」
若い剣士は、そう言いながら刀を抜き、そのままそれを地面に捨てた。
「刀を捨てるとは、もう負けを認めたようなものだっ!」
武蔵が言った。
「どこかで聞いたような台詞ですね・・・」
そう言いながら、若い剣士は懐から短銃を出し、武蔵めがけて引き金を引いた。
短銃から放たれた弾丸が一直線に武蔵野の額を撃ちぬき、武蔵は声を出す間もなく絶命した。

若い剣士は死んだ武蔵に向かって言う。
「これは、武蔵さんから学んだ兵法ですよ・・手段を選ばず勝つという」
そう言いながら若い剣士は、振り返ることもなく脱兎のごとく逃げていった。

これを見ていた武蔵の弟子たちが叫びながら、こちらへ走ってくる。

武蔵野亡き骸の前で、弟子の一人が言う。
「追っかけて、しらみつぶしに奴を見つけ殺しましょう!」
一番弟子であろう男が答える。
「いや、もう無駄な殺生はやめにしよう・・・」
「師匠が死んだ以上、もう我々が決闘をする意味もない」
別の弟子が言った。
「新しい剣豪伝説のはじまりじゃ!」
「宮本武蔵は偶像化され美化され、すべては美談になり伝説となる」
「そうじゃ、後の世に英雄伝説を残こそう!」
「武蔵作のもっともらしい精神修行の本も書いておくべきじゃな!」
「われら武蔵一門が宮本武蔵の伝説を作るのだっ!」
「おお〜っ!!」

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