キャンプだホイッ!
彼が雲隠れして、早1週間ばかり過ぎようとしていた。
雲隠れといっても、別に何ものかに追われて逃げているわけではない。
要するに、ちょっと長めのキャンプみたいなもんだと思えばいい。
だからといって、どこか環境の整っているキャンプ場でバーベキューなどやっているわけでもない。

何事も無く数年も都会暮らしを営んでいると、どうにもこうにも一人になりたくなる、そんな性分が彼にはあった。
有給休暇をフルに活用し、誰も来ないような雑木林や原生林にテントを張り、出来る限り長い期間自然生活をおくるのである。
自然生活とはいっても食料は充分にもっていくので、狩をしたり木の実を採取したりするわけではないのだが。
単純に表現すれば、これは彼にとってのストレスの発散方法であるのかもしれない。
あるいは、自己のアイデンティティーを維持するための自己保存の本能みたいなものであろうか。
いわゆる「一人になって考えたいんだよね〜!」みたいな若輩者のような性格が、いい年になっても抜けないということなのだろう。

彼は、隠者になりたいわけでもなく田舎に住みたいわけでもない。
生活の基盤は、あくまでも都会にある。
しかし、その都会暮らしを維持するためにはどうしても自然の中に何日も身をおく必然性があったのだった。

彼は、一週間分の髭をたくわえた顎を掻きながら飯盒の飯をほうばっている。
「自然の中で食う飯は最高だねっ!」
彼はそう思いながらオカズのラーメンをすすっている。
主食と副食が同類であるのは、こういう場合は仕方が無い。
自分を取り囲む美味い空気と樹木の新鮮な香りがオカズと思えば、贅沢この上ない食事である。
彼は食事が終わった頃には、明日帰ろうと決心を固めていた。
自分の中で何かが整理され腑に落ちたのを感じたからだ。

夜の帳が下りる頃には、もうテントの中に入り寝袋に身を包み色々な事を考える。
あーだこーだ考えてウトウトした心持になる瞬間が極楽である。
そして深い睡眠へと没入していくのだ。

突然、テントの外でガサゴソと音がした。
その物音で、彼は目が覚めた。
辺りはまだ真っ暗で、朝にはまだ遠いようである。
「熊か・・?」
朦朧とした意識の中で、彼は思い出した。
「ご飯の食べ残しを、ほったらかしたままだった・・・!」
おそらく野生動物の何かが、その残飯をあさりに来たのだろう。
ガサゴソする音を聞きながら、彼は硬直したまま身動き一つしない。
熊や猪あたりであれば突然脅かせば、身に危害を加えられる恐れもある。
とにかく、残飯を食べ終わり勝手に帰っていくまでソッとしていようと彼は決めた。

随分と長い時間物音を立てながらその動物はテントの周りをうろついていたようだ。
朝が白みかけてきた頃、ようやくその動物は去っていった。
彼は冴えきった意識のまま飛び起き、テントをたたみ食器を片付け、一目散に山道を帰っていった。

帰る途中に彼は笑いながら思ったのだ。
「これだからキャンプはやめられん!」
こんなスリルも自然の営みとセットなのだと、心底感じていた。  
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