断片小説 温泉ぬすびと
花盗人は罪にならない・・・とか言われているが、温泉盗人は罪にならないのだろうか。
といってはみたが、やはり窃盗であるには違いない。
地面の地下のどれくらいの深さまで土地の所有のもなのだろうか?
流動する地下水とかマグマとか、個人の所有物にはなりえない。
温泉の湯などは、地下から掘り当てた瞬間に個人の湯になるのだろう。

彼は掘られたばかりの温泉に入るのが趣味だった。
まだ温泉場として開業すらしていない、人跡未踏の湯に浸かるがこの上なく快感なのである。
たいてい掘り当てられた新規の温泉の湯は、一時的にタンクや大きな水槽のような場所に蓄えられたりしている。
湯量の多い現場であると、廃品のバスタブなどにかけ流し状態であることが多い。
湯量が少ない場合はタンクの中に貯蔵されることもある。

彼はそんな温泉堀の現場に深夜にコッソリ忍び込み、タンクの中の湯を盗み出し、自宅のドラム缶露天風呂で小原庄助をきめこむのだ!
強大なタンクの最下部に取り付けられた蛇口から流れ出す新鮮な温泉は、まるで樽から新酒が流れたときと同じ感動をおぼえた。
とはいえ泥棒には違いない、はらはらしながら流れ落ちる温泉の湯を眺める彼の心が気が気ではないのは確かである。
臨時の廃品のバスタブであろうが、やはり湯量が多く流れ出る温泉に浸かるのが新規温泉マニアの王道であろう。

彼は新規の温泉堀現場から温泉が湧き出た情報を入手。
早速、深夜になるとその現場に直行した。
温泉を掘る鉄塔が深夜の星空にシルエットとなり、彼のマニア心を高揚させる。
鉄塔の隣には、温泉を蓄えているであろうトタン板で組まれたホッタテ小屋があった。
おそらく、この建物の中に温泉の湯を蓄えてるのだろう。

車の中で衣服を脱ぎ、誰もいないのを見計らって脱兎のごとくその小屋の中に突入した。
モウモウと温泉の湯気が充満する小屋の中は一寸先も見えない。
彼は盲人のようにオズオズと湯船を探し、ゆうくりと温泉に浸かった。
「ぶはぁぁ〜〜〜〜・・」と彼は快感のため息をついた。
すると、湯気で何も見えない湯船のあちこちで、数人の咳払いが聞こえた。
言うまでもないが、世の中に新規温泉マニアは彼一人ではないのである。   
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