小さな足跡

男の家に、その小さな足跡が付くようになってからもう数ヶ月にもなる。
最初は、猫か犬かの足跡だろうとも思ったが、形が随分と違うのに気づいてはいた。
動物の足跡というより、むしろ人の足跡のようであった。
小さな人型の足跡である。
子供の足跡にしては小さすぎる。
あまり考えたくは無いが小人の足跡ではないかと、男は思っていた。
コロポックルや座敷童、あるいは河童や妖精などの異世界の住人かもしれない。

始めのうちは玄関のみにしか足跡は着いていなかったが、最近では壁の部分や天井にまで足跡があることがあった。
もはや犬猫ではないこは確かである。
しかし、なにか悪さをするというわけでもない。
かといって、良いことをするわけでもない。
ただ単に足跡を残すのみの存在である。

確かに何物かが男の家に住んでいることは間違いが無いのだが正体が知れない。
はじめのうち、男は気味悪がっていたが、時間が経過するほどに親しみを覚えはじめていた。
一人暮らしの男にとって、家族が増えたような感覚である。
ある意味、男の無味乾燥な毎日に楽しみが出来た、とでもいえるだろう。
男にとっては、何十年ぶりかの幸せな気分といっても良いかもしれない。

あるとき男は。この小さな足跡の形に違いがあることを発見した。
小さな住人は数人で、男の家に住み着いていたのだ。
男はこの住人に名前を付けている。
「ジョン、ミック、エリザベス、シンディ」
今のところ足跡の形は4種類だが、男女の差もわからない。
しかし、男にとっては愛すべき家族であるには違いない。

昔から座敷童が住み着くと良い事があるとか、コロポックルを見ると幸せになるとか言われている。
その逆に、河童に悪さをされただとか、シッポの尖った妖精が不幸をつれてくるだとか言われることもある。
しかし、それは人間側の勝手な迷信に過ぎないのだろう。
異世界の住人を気味悪がれば、不穏な出来事はすべてそのもののせいにされてしまう。
また、異世界住人に親しみを覚えれば、良い出来事はその住人がもたらしたと思い込む。
異世界の住人は、ただそこに現れ消えるのだけの存在である。
良いも悪いも、幸も不幸も人間の都合で決められてしまうのが常だ。

いつしか男は、この異世界の住人が、いつまでもこの家に住み続けてほしいと願うようになっていた。

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