文化住宅の時間

その住宅は、和洋折衷の昭和の典型的な文化住宅だった。
それだけならば、少なくなったとはいえそんなに珍しい建築物ではない。
なんというか、その住宅全体に纏わりついているような昭和の時間のようなものが、その建物にはあったのだ。
たとえて言うならば、その民家全体を覆う空気全体が昭和の匂いに満ち溢れているのだ。
建物自体も昭和的な風情ならば、板塀に囲まれた庭も妙に昭和的な空気を感じるのである。
庭のほとんどは板塀に囲まれているのではあるが、なぜか2・3メートルの区間だけは生垣になっている。
1メートル足らずの高さの生垣なので、中の様子がうかがい知ることが出来るのである。
この家の主は庭いじりが趣味なのであろうか、手入れが行き届いた樹木は生き生きとしている。
それに、なにより昭和の雰囲気を感じてしまうのは、庭の隅にある手押し式のポンプの存在である。

今時珍しく現役で使われている手押し式のポンプである。
ていねいに水の噴出し口には、木綿の袋まで取り付けられていて水の中の小石などがバケツなどに入らないようにしてある。
きっと飲み水にも、庭に蒔く水にも使用されているのであろう。
ポンプの周りの鉄には水滴がついて生気があるようだ。

夕暮れ時の散歩のコースにその家はあるのだが、家の住民とは話をしたことはない。
年のころは60歳い前半くらいだろうか、初老の夫婦が住んでいるのは知っているが、いつも会釈をするだけで通り過ぎてしまう。

散歩のコースといっても物ぐさな私は毎日日課にしているわけではなく、天気の良い夕焼け時にしか散歩はしていない。
しかし、夕焼けが綺麗なときなどには、どうしてもその家の前を通ってしまいたくなる。
なにか失われてしまった昭和が、今もそこには有るような気がして、磁石にひきつけられるようにその家の方向に足を運んでしまうのだ。
時間帯によっては、七輪で鮭の切り身を焼く匂いに包まれていたり、まきで炊くご飯の匂いまでしてくる時がある。
不思議な家であるとは思うが、主がかまどで作る夕飯にこだわりを持っているだけなのかもしれない。

今までに一番不思議な感覚にさせられたのは、その家の奥から聞こえてくるテレビの音だった。
時間は6時か7時頃だったろうか。
あの懐かしい「シャボン玉ホリデー」のテーマソングが聞こえてきたのである。
そのときは、思わず自分がタイムスリップしてしまったのではないかと本気で思ってしまったほどである。
テレビの懐かしい音は、1度や2度ではない。
あの武田薬品のCMソングや、月光仮面の主題歌まで聞こえてきたことがあった。
しかしよく考えてみれば、今時はそれらの懐かしい映像を納めたDVDなど容易に手に入れることができるj時代である。
家の主が昔を懐かしんでDVDでも見ていたのであろう。

いまでも私は夕焼けが綺麗な時間は、あの昭和の空気が漂う文化住宅の前をゆっくりと歩くことにしている。

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