からくり大仏事始(びぎにんぐ)

からくり甚五郎は羽田夢佐衛門春之助という長たらしい名前の住職の寺で、居候を決め込んでいた。
羽田夢佐衛門春之助は元武士であったが、武士の宮仕えに嫌気が差して、今は出家し僧侶になっている人物である。
「春さん、美濃の城下町も平和だねぇ!」
からくり甚五郎が羽田夢佐衛門春之助に言った。
羽田夢佐衛門春之助の名前があまりに長く言いにくいので、甚五郎は”春さん”と呼んでいる。
「そうだねぇ・・甚さん。こういう退屈な平和がいつまでも続くといいですねぇ・・・」
春さんが、ほうじ茶を美味そうにすすりながら言う。
ひねもすのたりの時刻に、こうしてとりとめも無い話をしながら茶を飲むのが、2人の日課でもあった。

「てーへんでぇい!てーへんでぃ!」
突然、寺の門前の方角から、けたたましい声を響かせながら治郎吉が走ってきた。
「大変ですよ、甚さん!春さん!」
治郎吉が息せき切って苦しそうに2人に言った。
「治郎吉っあん!どーしたっていうんだいっ!そんなに慌てちゃって!」
甚さんが、びっくりして言った!
「どーしたもこーしたも股下も鼻の下も・・・・ゲホッゲホッ・・」
治郎吉が咳き込んでしまった。
春さんがほうじ茶を差し出し、茶をゴクゴクと飲み干して治郎吉が続ける。
「また、金持ちんとこの蔵が襲われましたぜっ!」
「ひょっとして、またあの仁王さんの化け物が蔵を襲ったっていうのかい!?」甚さんが難しい顔をして言った。
「そうよっ!材木問屋・美濃屋の蔵から千両箱をゴッソリ盗んでいきやがったのよっ!」治郎吉が、また茶を飲みながら言った。
「60尺以上もあるって噂じゃないですか?その仁王さんは・・・」春さんが言う。
「本物の仁王さんが、そんな悪行するわけがねぇ・・・!!甚五郎が腕を組みながら考える。
「そうさっ!そんでもって、俺はあの仁王さんはからくり仕掛けの仁王さんじゃねーかって睨んでる!」治郎吉が言った。
「甚五郎さんが作った”からくり大仏”と同じ物ようなからくりが、もう一つあるって言うのですか!?」春さんが言う。
「そうとしか考えられん!」甚五郎と治郎吉が、声をそろえて言った。
「あんな大きな仁王像を隠すには広い場所が必要だ、寺の山門とか五重塔とか・・・」甚さんが考えながら言う。
「あの大きさの仁王さんがある寺っていえば・・この辺じゃ蓮覚寺しかないでしょうね!」春さんが言う。
「おおっ!そういえば寺の門の両側に、そんくらいの大きさの仁王像があったな」治郎吉が言う。
「では、蓮覚寺に行って、仁王さんを拝んでくるとするか」
そう言うと、3人は蓮覚寺へ歩いていった。

蓮覚寺の山門は巨大で、阿形と吽形の形相の金剛力士像が聳え立つようにあった。
「阿吽の仁王さん・・・なかなかの出来具合じゃないですかな・・・」春さんが、感心しながら言った。
仁王像を眺めながら、甚五郎が言う。
「この作りは・・・からくり仁左衛門のつくりじゃねぇか!」
「からくり仁左衛門って、誰だい?」春さんと治郎吉が言う。
「からくり仁左衛門は、俺の兄弟弟子よ・・・」甚さんが言った。

”からくり甚五郎”と”からくり仁左衛門”とは、飛騨の匠・五代目左甚五郎の元で共に技を磨いた兄弟弟子であった。
だが、からくり甚五郎が名前を受け継ぎ、仁左衛門はそのゆがんだ性格ゆえに破門になった。
仁左衛門は”甚五郎”の名前を襲名できなかったことを、ずっと逆恨みしていた。
そして、破門後からくり仁左衛門はその技を買われて、盗賊・霞の蜘蛛衛門の一味になったらしいと、もっぱらの噂である。

「この桐の木の彫り方といい、仁王さんの顔つきといい、仁左衛門の細工に違いねぇ!」
からくり甚五郎は確証を得たように言い放った!
「するってーと、この仁王さんが夜な夜な町を騒がせてるっていう、からくり仁王さんですかい?」
治郎吉が山門の周りを調べて言う。
「そうよ!きっとそうにちげーねぇ!」甚五郎が強く言った。
「ここで火つけて焼いちまおうかい!」治郎吉が言う。
「そりゃ、あんまり乱暴すぎる!」甚五郎が言った。

そこで春さんが思案しながら言った。
「ここで焼いても、仁左衛門も盗賊一味も捕まりません・・・。しかし、今日の夜は新月だ!盗賊にとっちゃ泥棒日和っていう夜ですよ」
春さんが計画を練りながら、2人に続けて言う。
「甚五郎さん!治郎吉さん!俺たち3人で霞の蜘蛛衛門の一味を出し抜いてやろうじゃないですか!
こちらには、甚さんのこさえた”からくり大仏”もあることですしね!
今夜の城下町は、大騒ぎになりますよ!」
そうして、春さん甚さん治郎吉の3人は、蜘蛛衛門の一味を取り押さえる企てを話し始めたのだった。



草木も眠る丑三つ時の半時前、豪商・三川屋の黒塀の前で春さんと治郎吉が隠れながら、盗賊一味を待ち伏せしていた。
「奴らが狙うとしたら、この小さな城下町じゃ三川屋しかねぇとふんだんだが・・」
治郎吉がカンを働かせて、三川屋を選んだのだ。
「近所で地響きがしたなら、すぐさま甚さんを呼びに言ってくださいよ!」
春さんが、治郎吉に言った。
「合点承知よっ!」治郎吉が言う。

新月の夜、星だけが瞬く夜空に流れ星は、一つ二つ。
犬の遠吠えが、城下町に木霊する。

突然、蓮覚寺の方向からドシンドシンと地響きが聞こえてきた。
「おおっ!からくり仁王さんのお出ましですよぉ!」
春さんが治郎吉に言った。
「ひとっ走りして甚五郎さんに知らせてくらぁ!」
治郎吉が言うなり、脱兎のごとく走り出した。
「治郎吉さん!例の菜種油も忘れないでくださいよっ!」
春さんが叫ぶ!
「おうっ、まかせとき!」
治郎吉が叫ぶ!

案の定、からくり仁王は三川屋の蔵に向かって、地響きをたてながら近づいてきた。
「ちっ!思ったより早くやってきちゃったね!」
春さんが、忌々しく叫んだ!
からくり仁王は盗賊一味の作りなので、早く逃げれるように軽い木材の桐で作られている。
それゆえ、ケヤキで作られた丈夫で重い大仏より早く動けるようなのだ。
「こいつぁ、ちょいとヤバイかもしれませんよぉ・・・」春さんが小声でつぶやいた。

バキッバキッバキッ・・・・!!
三川屋の黒塀を破壊しながら、からくり仁王が千両箱のたんまり入った蔵に近づいていく。
からくり仁王が蔵の壁を壊そうとした、その時・・・・!!
「からくり仁左衛門!ここで会ったが百年目!悪行はゆるさねぇぜ!」
そう叫びながら、甚五郎の操縦するからくり大仏が現れた!
蔵の壁を壊そうとしている仁王の腕を、ムンズッ!と鷲づかみにして蔵から引き離した。
「おお・・お前は・・甚五郎・・!?」
仁王の操縦席から仁左衛門が叫ぶ。
「久しぶりだなぁ!盗賊家業とは落ちぶれたもんだな!仁左衛門!」
甚五郎が言い返す。
「こうなっちまったのも、みんなお前のせいよ!」
仁左衛門も言い返す。
「逆恨みってのも往生際が良くねぇぜ!」
甚五郎が、そういうが早いか、掴んだ仁王を引き倒した。
ドドドドッ〜〜〜〜ン!!と地面を揺らし、仁王は転倒した。

「やりあがったなっ!」
仁左衛門が叫ぶと、仁王はすばやく立ち上がった。
「さすが、桐でできているだけあって、素早いぜっ!」
甚五郎が言うが早いか、大仏の右手が仁王の胸辺りにパンチをお見舞いした!
ガァァ〜〜ン!と木のぶつかり合う激しい音を響かせて、仁王の胸がベコンと凹んだ!
「どうよっ!こちらはケヤキで出来てる上物よ!」
甚五郎がもう一度パンチを出そうとした瞬間、後ろから何物かに羽交締めにされたのだった!

「甚五郎よっ!仁王さんは一人じゃあないんだよ!二人の対で仁王さんよっ!」
仁左衛門が笑いながら言う。
背後から忍び寄った吽形の仁王に羽交締めにされたからくり大仏は、身動きが取れない!
「これで、からくり大仏も甚五郎も、今日で見納めっていうもんさっ!」
吽形の仁王の操縦席で、盗賊の首領・霞の蜘蛛衛門が不敵に笑った。
「くそっ!盗賊の親玉の蜘蛛衛門のお出ましってわけかいっ!」
甚五郎が忌々しくさけぶ!

仁左衛門の操る阿形の仁王が、大仏の胸や頭を容赦なしに殴りつける!
ド〜ン!ガ〜ン!と、城下町の夜を響かせながら、仁王の大仏攻撃は激しく続く!
その騒ぎを聞きつけた、大勢の野次馬が周りを取り囲み、叫んでいる。
「大仏!がんばれ!」
「大仏!負けるんじゃね〜〜!」
「マカハンニャハラミタシンギョウ」
しかし、仁王の攻撃は無慈悲に容赦なく続く・・・

「菜種油持って来たぜッ!」
治郎吉が、春さんに野次馬の声に負けない大声で言う。
「おお・・遅かったじゃないですか!」春さんが言う。
「野次馬連中がいっぱいで、遅くなっちまったぜ、申しわけねぇ・・」
菜種油の入った樽の栓を抜きながら、治郎吉が言った。
「仁王が大仏に気をとられている今のうちに、油を仁王の足に撒きますよ!」
と、春さんが号令をかけ、治郎吉と春さんは大仏を殴りつけている仁左衛門の阿形の仁王の足に、菜種油をぶち撒いた。
そして、すぐさま春さんがその油に火を放った!

ゴッ〜!と音を立てながら菜種油の火が、仁王の足を燃やした。
「あっちっち・・・!」
仁左衛門は足の火に気がつき、火を消そうとしているが、桐の木は火が燃えるのが早い。
みるみる仁王の足を燃やしていく。
仁左衛門の仁王が慌てふためく隙に、からくり大仏は後ろで羽交締めにしていた仁王を、エイッ!と背負い投げで前方に投げ飛ばした。
ドッドド〜〜ン!と吽形仁王は背中からもんどりうって倒れ、そのまま動かなくなったしまった。

「次は、お前だぜっ!」
甚五郎は火がついて慌てふためく仁王の胸に、思いっきりパンチを食らわせた!
ガッガガガガァ〜〜ンッ!
木製の歯車を四方八方に撒き散らしながら、阿形の仁王は文字どうり仁王立ちになったまま停止した。
胸に空いた大きなパンチの穴から、仁左衛門が逃げ出し、何処かへトンズラしたようだ。
野次馬たちが歓声を上げる!
「うぉ〜!大仏〜〜!」
「やったぜっ!」
「ありがたやぁ・・」
「南無阿弥陀仏・・」
からくり大仏に手を合わせて拝む人や、お経を唱える人までいた。

倒れたままの吽形の仁王さんから、盗賊の首領が捕らえられ盗賊一味は散散ばらばら、蜘蛛衛門は後に獄門打ち首となった。
しかし、からくり仁左衛門は、トンズラして行方知れずのままで、未だに捕獲されてはいない。



「治郎吉っさん、もう江戸へ帰るんかい・・・」
名残惜しそうに、からくり甚五郎と春之助が治郎吉に言う。
「江戸じゃ、かかぁとガキがまってるんでね。また珍しい本あったら持ってきやす!」
治郎吉も名残惜しそうに言った。
「たのむぜ!治郎吉っさん」甚五郎が言う。
「気をつけなされ!」春さんが言う。
「それじゃ、あっしはこれで・・」
そう言いながら、治郎吉が手ふって旅路に出てゆく。
美濃の空は、天下御免の晴天であった。

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