からくり大仏大作戦

岐阜の金華山の麓に、江戸時代の匠「からくり甚五郎」が作った大仏がある。
座っている高さが10メートルあり、からくり仕掛けで動くと言われている。
そのほとんどが木で作られており、県の重要文化財にもなっていた。
大仏の鎮座する本堂は、住職の羽田常太郎が管理している。
普段は僧侶として生計を経てているが、いざというときには”からくり大仏”の操縦者となるのだ。
といってもこの大仏、江戸時代に作られたものである、空を飛べるわけでもなく火や水にも弱く、近辺の天変地異にしか活躍は期待できない。
そんなわけで、からくり大仏の活躍は人々の記憶から当の昔に忘れ去られていた。

しかし、いざという時にすぐさま活躍できるように、住職の羽田は大仏の整備を怠ってはいない。
今日も羽田住職は、大仏の背中にある観音開きの扉を開け、大仏内部の操縦席のからくり仕掛けの取っ手や計器類を掃除していた。
「大仏さんのからくりに埃りがたまっていては、罰があたるでのぉ」
住職の羽田は、もう60歳をとうに超えている。
先代の住職である父親から、からくり大仏の操縦法を教わって久しい。
羽田の息子は操縦法すら覚えようとはしない。
「からくり大仏も、ワシの代でおわりじゃて・・」
操縦席の埃を払いながら、羽田はさびしそうに言った。

晴天の空、金華山の上空は青く果てしなく広がっている。
岐阜は歴史的物件の多い町である。
金華山山頂の岐阜城は、斉藤道山が開いた城であり、麓には織田信長の居住跡がある。
麓にある岐阜公園から、山頂の岐阜城まではロープウェーが引かれ、乗客が景色を楽しんでいた。

突然、観光を楽しんでいる数十人の乗客を乗せたまま、ロープウェーが急停止した。
ガタンと急停止したショックで、乗客の吸っていたタバコがロープウェーから落下し、森林の枯葉に引火した。
枯葉に引火した火は、みるみる大きくなり、前代未聞の山火事となりつつある。
大惨事は連鎖反応で起きる!
故障で停止したロープウェーが、山火事の炎で焼かれようとしている。
乗客はパニックでなすすべも無く、泣き叫んでいる。

救急車や消防車のけたたましいサイレンの音を聞きながら、羽田住職が金華山の方角を見やった。
金華山の山林からモウモウと立ち上がる黒煙を見ながら、羽田は決意した。
「からくり大仏の再起動のときが来たようじゃな!!」
住職は、急いで大仏に乗り込み、始動レバーを引いた。
ガタンと大仏本堂が二つにわれ、大仏が何十年ぶり、いや百年ぶりに直立したのだ。
ゴゴゴゴッ・・・と唸りながら、からくり大仏は本堂から出て、金華山の山火事の方角へと歩いてゆく。

「からくり甚五郎の匠の技を見せてしんぜよう!!」
羽田住職は、老骨に鞭打って力いっぱいレバーを引く!
ドシンドシンと地響きを立てながら、からくり大仏は巨大な身体をロープウェーへと移動させる。
山火事の炎が大仏の足に引火し、ジワジワと木造の足を焦がしていった。
「うむぅ!はやく乗客を助けなきゃ、大仏も燃えてしまうわい!」
羽田住職は、急いでロープウェーの下に大仏の手を差し出した。

「助けが来たぞ!」
「うぉぉ!あれが、伝説のからくり大仏なのか?」
「鉄人か!」
「ガンダムゥ〜〜!」
ロープウェーの乗客が、叫んである。

差し出した巨大な大仏の手に、乗客次々に飛び乗り、数十人の乗客たちは全員救出された。
その瞬間!
山火事の高温の炎でグニャグニャに溶けてしまったロープウェーの鉄塔が、ドーンと地面に倒れたのだった。
「危機一髪じゃった・・・」
羽田住職がつぶやいた。

山火事から脱出し、からくり大仏は安全な岐阜公園の広場に乗客たちを下ろしていく。
「助かった!」
「俺たち、生きてるぞ!」
乗客たちは興奮状態のまま、皆泣きながら抱き合って喜んでいる。
数台の消防車が、大仏の足元へ水を放水し、焦げる足の火を消している。
救急車が、乗客たちを地元の救急病院へと運んでいく。
山火事の炎の猛威は、何十台もの消防車で鎮火し始めたところだ。

足元を焦がした大仏は、本堂へゆっくりと歩いていった。
そして、もとの台座にドッカリと座り、安堵の息をついているように見えた。
本堂の中は、大仏の足の木の焦げた匂いが、うっすらと漂っていた。

その後、からくり大仏はニュースで話題になり、ニューヨークタイムスの表紙を飾り、日本の匠の技を世界に知らしめた。
大仏見学の観光客は、ひっきりなしに来訪して寺は繁盛した。
そして、からくり大仏の操縦も、羽田住職の息子が後を継ぐそうである。

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