昭和猫町4丁目
招き猫湯のシガラキさん

狸のシガラキさんは、今日も番台に座って本を読んでいる。
昼下がりには客も少ないので、いつも世界名作全集を読んでいるのだ。
それでも、夕方頃になると客が増えてくる。
常連客には、古本屋の寅次郎や電気屋のジョンも居た。
常連客の他にも、昭和の銭湯を懐かしがって訪れる観光客もけっこうやって来る。
土日や祝日にはけっこう混雑するので、常連客は閉店間際の午後12時ごろしかやってこない。
銭湯の入浴料金が100円という安さであるが、観光客が大勢来るのでやっていけるということらしい。

シガラキさんの経営する銭湯は”招き猫湯”という名前である。
書院造りの立派な銭湯であるが、浴槽の後ろのペンキ絵は富士山と決めている。
浴場のペンキ絵は5丁目の狐のゴンザさんが描いているのだが、今ではペンキ絵が芸術とされ、テレビにも時々出ている職人さんだ。
狐のゴンザさんとシガラキさんは、昔山を駆け回っていたころからの幼友達であった。

銭湯につきもののコーヒー牛乳やフルーツ牛乳は、番台の横にあって、未だに30円という安さである。
冷蔵庫の横には「腰に手を当てグビグビ飲もう!」と張り紙がある。
これが話題になって雑誌の取材を受けたこともあった。

脱衣場の隅っこでは、大山椒魚のサン輔さんとシーラカンスのカン三郎さんがいつものように碁をさしている。
これもいつもと変わらない光景で、二人の碁は数時間も続くこともある。
大山椒魚もシーラカンスも100年以上生きると人間に化けることができるという噂であった。

番台からは女湯も見れるのだが、いかんせん狐や狸や化け猫などの妖怪連中では欲情もしない。
たとえ人間の女性であっても、シガラキさんは狸なので何も色っぽくもない。
浴場で欲情するのは、よくないじょ〜!という諺も・・・聞いたことは無い!


「はい!子供は1人50円だよ・・」
シガラキさんは、番台の上から近所の子供会の子供たちに向かって言った。
子供たちは、銭湯が珍しいのか、ワイワイ騒いでいる。
「銭湯の中では、あまりはしゃがないように注意してくださいね!」
子供会の世話人の人間に化けた化け猫のタマ子さんが、女湯から声をかけている。
シガラキさんは、タマ子さんに軽く会釈をしながら微笑んだ。
「いつも子供たちが騒いですみませんね」
タマ子さんがタオルで身体を隠しながら言った。
「ああ・・子供は元気が一番です!」
シガラキさんは笑いながら言う。
そぶりを見せないようにしていたが、シガラキさんはタマ子さんのことを好きなのである。
そんなことなので、子供の誰かが銭湯の隅にある水槽の金魚をコッソリ食べてしまっても文句を言わなかった。

「ところで、今度の出来た新しい映画館には行きましたか?」
シガラキさんはタマ子さんに言った。
「まだですの・・・行ってみたいとは思ってますけど・・」
タマ子さんは微笑んで答えた。
「明日映画館で昭和の名作”青い山脈”をやるのですが、一緒に行きませんか?」
シガラキさんは思い切っていってみた。
「えっ!あの映画をやるんですか!是非見たいですわ」
タマ子さんが喜んで言った。
「いい映画ですよね・・」
シガラキさんが言う。
「私、原節子のファンなんですの」
そう笑うタマ子さんの顔は原節子にそっくりである。
「あっ・・僕も原節子の大ファンなんです・・・」
シガラキさんがそう言うと、タマ子さんはちょっと顔を赤らめた。
池部良に似ているシガラキさんも、ちょっと顔を赤らめた。
実のところ、タマ子さんもシガラキさんのことを憎からず思っていたのだった。
そうして、シガラキさんのデートの約束は、何の苦労も無くあっさり成功してしまった。

関係ない話だが、シガラキさんの遠い親類が、あの信楽の焼き物の狸のモデルだったとは、昭和猫町の誰も知らないことだ。
池部良似のシガラキさんは、あの飲み屋やなどで玄関でチンチンを丸出しにしてたたずんでいる狸の置物が、親類であるとは言えなかったのである。

招き猫湯が終わる頃、大きな身体をした外国のお客さんがやってきた。
「おお!ここが日本の銭湯というものですか!」
外国のお客さんは、黒い肌で体重も重そうなアフリカ人だった。
「いらっしゃい」
シガラキさんは答えた。
「おお、ここで服を脱いで裸にんるので〜すね!」
そう感動しながら、脱衣場でそのアフリカ人は服を脱いでいる。
しかし、突然その人の立っていた脱衣場の床がメキメキという音を立てながら、ズボォ〜〜ン!と壊れ、大きな穴が空いてしまったのだ。
「おお!たすけ〜てくださぁ〜い!」
アフリカ人が、シガラキさんに助けを求めた!
シガラキさんがあわてて、番台から助けに行く。
何が起こったのかわからない常連客も驚いて、アフリカ人を穴の開いた床からみんなで引っ張り上げた。

「あ、ありがとうござま〜す・・」
アフリカのその人物は言った。
「私はエレファン太というもので〜す、アフリカから来たアフリカ象で〜す!」
続けてエレファン太が言った。
「いくら人間に化けても、5000キロの体重は変えれませ〜ん!質量不変の法則でぇ〜す!」
像も100年生きると、人間に化けることができる。
しかし化け象は、形は人間に化けても体重までは変えれないらしい。

「ここの銭湯じゃ、あんたの身体じゃ入浴は無理ですよ・・」
シガラキさんが困った顔で言う。
「おお・・・、せっかく日本のお風呂にはいりたかったのに・・・残念で〜〜す」
エレファン太が言う。
「おお!そうだっ!」
シガラキさんが良い事を思いついたようだ。
「ここからチョット歩いた所に猫町温泉があります、そこの露天風呂なら大丈夫ですよ!」
そう言うと、シガラキさんはエレファン太を猫町温泉の露天風呂まで案内した。
そんなこんなで、無事にエレファン太は日本の風呂を満喫できたようだ。

常連客のシーラカンスのカン三郎が、シガラキさんに言った。
「こんな大きな穴が開いたんじゃ、明日は休みだね!」
「そうだね・・・明日は休みにするか・・」
シガラキさんは、そう言いながらツキノワグマの大工の源ジイサンに電話をかけた。
そして、大工の源ジイサンが明日には穴を直してくれることになった。
「みなさん!明日はお休みにします!」
シガラキさんは大きな声で、常連客のみんなに言ったが・・・
『どうせ明日はタマ子さんとデートだしぃ・・・』
そう心の中でシガラキさんは思っていた。


翌日、デートに出かける前、シガラキさんは銭湯の前に大きな手書きの看板を立てかけた。
『本日臨時休業。化け象の方はお手数ですが猫町温泉の露天風呂にお入りください』

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