女の時

男の中には、女の魂がもう一人いた。
男の一つの身体を、もう一人の女が使っている。
前世というものがあるならば、その男と女はきっと来世で一つになると契りを交わしたに違いない。
同じ時間と空間に住んでいながら、決して会うことの出来ない恋人同士である。

朝起きると、男は会社に出勤し男としての役目をはたす。
会社では、男は無類の愛妻家で通っていた。
時間どうりに、きっちりと自宅に帰るからだ。
混んだ通勤電車に乗り、職務を果たし、夕暮れ時にはまた自宅に戻る。
人付き合いはほとんどしない、なぜなら彼女に会うためには夕暮れから夜にかけての時間が不可欠だからだ。

男は自宅のマンションに戻ると、休む暇も無く洗面所に向かう。
若干伸びた不精髭を剃るために。
男は丁寧に髭を剃っていく。
微塵の髭も残してはいけないのだ。
少しでも髭の痕跡を感じれば、彼女が悲しむからだ。
綺麗に剃られた男の頬や顎は、女のようにすべすべとしていた。

ファンデーションを塗り、アイブロウで眉を書き、チークを頬に塗る。
口紅を塗り終わると、男の人格は消え、心は女になっていた。
ストッキングを穿き、婦人服を着、香水をつけ、女は男のために明日の弁当と食事の用意をする。
鏡を見ながら女は独り言を言う。
「私よ。私・・・今日も会いにきたわ・・・」

女は一生会うことの出来ない男を思いながら、キッチンに立つ。
炊飯器のスイッチを入れ、男の背広をたたんでいる。
部屋の掃除が終わり、洗濯も終わる頃には、もう深夜になっている。
女はまた洗面所に向かい、化粧を落としながらつぶやく。
「また明日ね・・・」
化粧が完全に落とされたころ、女は男の心に戻っていた。

そして男は、決して会うことのできない恋人のことを考えながら眠りについた。

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