時橋

その橋は古くから”時橋”と呼ばれ、わたった人は二度と帰えってこないとされていた。
言い伝えによれば、橋の向こう側の世界は桃源郷のような村であるとも言われていた。
古くからの伝説の時橋は、村の北側にある神社の奥深くの山の麓にあった。

私は、その伝説が知りたくて、この村に来ている。
村人に聞いたところ、時橋はその村の北に向かう一本道の奥の古い神社を目指していけば分かるそうだ。
が、今はもう鬱蒼とした樹木に覆われて、どこにあるか定かでないと言う。
しかし、遠路はるばるここまで来た以上、何の情報も得られないで帰るのも心外である。
とにかく私は、その神社奥まで行ってみることにした。

村から離れた一本道は、懐かしいような風景が続く道で、桃源郷伝説もリアルな話にも思えてくる。
春も真っ盛りで、山の所々に咲き誇る山桜のピンク色は、華やかというより色っぽくもあった。
一本道には、六地蔵様や道祖伸が祭ってある場所もあり、時橋を渡らなくても桃源郷のような風情であった。
小1時間も歩いていくと、鬱蒼とした森の中に神社らしき建造物を発見した。
もう朽ち果ててほったらかしで、鳥居の形さえ良く見ないと分からない。

「ここらあたりに橋があるはずなんだが・・」
私は、独り言を小声で言いながら、神社らしき建物の奥を探して廻っている。
拝殿らしき朽ち果てた木造建築の後ろに、こんもりと茂った樹木の塊があった。
私は、時橋はここら辺りではないかと推測し、多い茂った葛のツタや雑草を引きちぎっていく。
雑草は硬く纏わり付き、その中の物件を見出すには、なかなかの苦労が必要な状況であった。
しかし、私は根負けしないで長い時間かかって、その樹木や雑草を取り除いた。

「やはり!」
草木の中には、石作の5メートルほどの長さの緩やかなアーチ状の橋を発見した。
私の心は高揚していく。
「伝説の時橋だ・・・」
側面には笹竜胆のような模様が彫られており、欄干は黒い御影石のような極め細やかな石で作られている。
伝説の時橋は、今出来たばかりのように滑々しており、何十年も放置されたものとは思えない状態だった。
私は、欄干を触ったり、側面に彫られた模様を撫でてみたり、感動を味わっている。
デジカメに全体の形状や、周りの景色などを撮影し、記録は充分に撮っておいた。
「桃源郷にでも行って見るか」
私は冗談半分にその時橋を渡ってみた。

渡っては見たが、当然何事も起こるはずもなく、春の暖かな風が頬を撫でていくのみであった。

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