梅鼻商店街

思いのほか仕事が片付くのが早かったので、私は昔通っていた梅鼻高校方面に、ちょっと足を伸ばしてみることにした。
梅鼻は”梅の花”が転化したものではなく”産め鼻”が変化した地名なのだ。
神様だか巨人だかの鼻から生まれた土地が梅鼻という伝説があるらしい。
私の通っていた高校から7・8分歩いた所に、梅鼻商店街という繁華街がある。
繁華街といっても名前ほど大そうなものではない。
100メートルほどの広い路地のような商店街である。
とは言うものの、私の高校時代は大変賑わっていた。
生活必需品は言うに及ばず、映画館やスーパーマーケットもある当時としては洒落た商店街だった。

「そういえば虎屋の”揚げおだまき”なんてまだあるのかな?」
突然、懐かしい和菓子のことを、私は思い出した。
揚げおだまきとは、薄いカステラのような生地に小倉餡を巻き込んだ、10Cmくらいの枕状のドラ焼きみたいな菓子を、天麩羅にして揚げたものである。
脂っこいうえに高カロリーで、育ち盛りの高校生にはたまらない高級な駄菓子であった。
高校の頃は、放課後のクラブ活動の合間に毎日のように食べた記憶がある。
当時は、20円か30円かだったと思うが、もうはるか昔のことなので定かではない。
頭に唐突に浮かんできた懐かしい駄菓子を急に食べたくなり、私は車を梅鼻商店街に向けた。

商店街に近づくにつれ、昭和の雰囲気が濃厚に漂ってくる。
30数年前と変わらないような家々が、車のフロントガラスに映し出される様子は、まるで映画を見ているようだ。
格子戸の整った民家や看板建築の自転車屋、店先に野菜を並べる八百屋に鄙びた手書きの看板が立ち並ぶ駐車場。
どこを切り取っても昭和の風景だった。
「たしか、この通りが梅鼻商店街だったと思うんだが・・」
私は30数年前に記憶をたどり、細い路地を右折した。

とたんに賑やかで活気に満ちた商店街が目に焼きついた。
豆腐屋のラッパが聞こえ、八百屋のオヤジが今日のお値打ち品を叫んでいる。
道行く人々は笑顔で会話を交わし、笑顔に満ちていた。
「不思議だなぁ・・」私は懐かしさを覚えながらも奇妙な気持ちが抑えられなかった。
「まるで、当時のままじゃないか・・?」
ありえない光景を目の当たりにして、私の心が動揺している。
車の窓から見える商店街の光景は、紛れも無く昭和の風景だ。
そこうしているうち、見たことがあるような高校生の男女が、私の車の横を通り過ぎていく。
「あっ・・・!」私は、思わず声をだしてしまった。
なぜなら、その高校生は私と私の初恋の人だったのだ。
私はブレーキを思いっきり踏んで、車を止め、ドアを開けた・・

・・・だが、
そこには寂れて人気のほとんど無い商店街が死んだようにあるだけだった。
賑やかで活気のある商店街は消え去り、現実の商店街がそこには横たわっていた。
寂れて生き絶え絶えの商店が連なる、瀕死の昭和が泣いていた。

「やはりな・・・」
私は、先ほど見た幻覚を思い出しながらも、現実を見せ付けられた心持である。
もう、この商店街は寂れ果てて長い時間が経っているのであろう、営業している店も数点あるのみで、その店さえ活気など皆無である。
老人や老女が店番をしながら、死を待っているような光景に、胸が痛んだ。

あの懐かしい虎屋の”揚げおだまき”などあるはずもないであろうが、万が一ということもある。
近くの閑散した店の老女に聞いてみることにした。

「あの、すみません虎屋の”揚げおだまき”って、まだありますかね?」
私は、店の老女に丁寧に聞いてみた。
「ええ・・虎屋の”揚げおだまき”なんて、ここにありゃせんよ」
無愛想に答える老女の目に生気が無い。
「ドラ焼きの天麩羅みたいなお菓子なんですけど・・」
私は聞きなをしてみる。
「そんなもん、聞いたこともない!」
老女は不機嫌そうに言う。

私はいやな気分になっていくのを感じていた。
老女の言葉も嫌な雰囲気だが、老女自体も不快で悪意に満ちた空気を放っていた。
これ以上聞いたところで不愉快になるだけだ。
私は、気分の悪さを出さないように、会釈をして車に乗った。
そして、エンジンをかけ、ゆっくりと車を発進させた。

商店街を通り過ぎるころバックミラーに写った家々を覗いた。
商店街の家々が廃墟のような形相で、一瞬ゆらゆらと揺らいで見た。
そのとき、私は思ったのだった。
「商店街の幽霊というものが存在するのかもしれない。
悪意に満ちて、生気を吸い取ってしまうような・・・
あの町全部が幽霊だったのだ・・・・」と。
私は、背筋に悪寒を感じながら、、急いで町を後にしたのだった。

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