星空マンは、真っ暗な夜空に宝石の星を瞬間接着剤でくっつけていく。
いつもなら漆黒の闇夜の空に蛍光ペンキで星を一つ一つ描くだけの仕事なんだが、今夜は特別な夜なのだ。
冬の特別な夜といえばたいていは決まっている、クリスマスイブの夜だ。
その日だけ星空マンは、夜空の星となる輝く宝石の一つ一つを、手を抜くことなく丁寧に貼っていくのだ。
とても根気の要る作業であるし時間も限られているので、星空マンにとってはきつい仕事ではあった。
しかし今日は特別な夜なのだ、愚痴ってばかりもいられない。

赤い星はルビー、紫色の星はサファイア、などと決まっているわけではないが、星空マンはそれらの宝石を選んで夜空に貼り付ける。
星の材料は、宝石と呼ばれるような特別な石ばかりではない。
花崗岩の一部分を加工したり、砂の中に金色に光る雲母を使ってみたり、また、アンモナイトの化石や恐竜の牙の化石を使ってみることもある。
毎年毎年違った宝石で、クリスマスイブの夜空の星星を飾り立てるのである。
それはすべて星空マンの気分によって決められている。

「今日はちょっと予算オーバーだったので、銀河系の星はガラスの破片にしておくか・・・」
星空マンは、高価な宝石を買いすぎたのを少し後悔していた。
「サウザンクロスの星を、大きなダイヤモンドにしたのが予算オーバーだったな・・・来年はジルコニアくらいにしておこう」
星空マンは独り言をつぶやきながら、残り少なくなった仕事を手早く進めていた。
「もうちょっとでイブの夜空も出来上がりだ」
「仕上げは、プレアデス星団付近の星を貼り付ければ終わりだな・・・」

星空マンの得意な歌は「オーバー・ザ・レインボー」・・・・・映画オズの魔法使いで主人公のドロシーが歌った歌だ。
仕事の仕上がり近くになると、星空マンは必ずこの歌を歌いだす。
鼻歌で歌ったり、歌詞をつけてうたったり、とても気分の良いときには絶唱したりして悦に入る。
星空マンは、今日は鼻歌を歌いながら星1つ1つに接着剤を塗っては貼っていく。

プレアデスの一つの星に接着剤を塗ろうとした瞬間、星にするはずだったラピスラズリがポロリと星空マンの手からすべり落ちた。
「おっと!しまった、うっかりだね!」
地上に落ちていくラピスラズリを眺めながら、星空マンは作業用のブランコをユックリと地上に降ろし始めた。


カーンカーカンカンカン・・・と甲高い音を立てながら、何か硬いものが屋根に落ちてくるのを、少年は聞いていた。
そして、それはポトンと少年の庭の花壇に落下した。
少年は庭に出て、その石を拾ってみた。
「隕石かな・・・・」少年は、そのこぶし大の大きさの丸い青い石を眺めた。
そのラピスラズリは、深い海のような青さで所々に金色の文様が銀河のように浮き出ていた。
「綺麗な隕石だな・・・」
少年は、また訝しげにラピスラズリを眺めてみた。

「それは、僕のラピスだよ!」
突然に少年の上空で声が響いた
「うわぁぁ!化け物!エイリアン!妖怪!ターミネーター!」
少年は、ありったけの大声を出して叫んだ!
「僕のような紳士を、化け物呼ばわりとは失敬だね!」
星空マンは、少年のあまりの声の大きさに少しビックリしたが、やさしく冗談っぽく言った。
少年は自分の上空を眺めながら驚いたままポカンとしたまま立ち尽くしていた。
そして少年は、気をとりなをして強く言った。
「こんな夜中に空から降りてくる人間なんか、化け物以外の何者でもないぞ!」

「うぅ・・・ん、たしかにそのとーりだね・・・」
星空マンは、自分自身で納得したかのように小声で言った。
そう言いながら星空マンはブランコを下におろして、自分も地面に降りた。
少しおびえる少年の前の出て、星空マンは自己紹介をする。
しかも紳士的な振る舞いだ。
黒いダービーハットを脱ぎながら、星空マンは言う。
「僕は星空マンというものだ、この地球の星空を描くのが仕事だ」
黒いタキシードの襟を撫でながら、星空マンは少年に気取った言い方で言った。

「やはり宇宙人なんだね、UFOはどこにあるんだ!」
少年は勝気な勢いで星空マンに挑むように叫ぶ!
「いやいや、宇宙人ではないよ、ただの人間さ!」
星空マンは、少年の言葉をやさしく否定した。
「夜の空から降りてくる奴が宇宙人じゃないって・・・ありえない!」
少年は真っ向から信じようとはしていない様子だった。

星空マンは返す言葉もなく、しばらく黙ってしまったが、気を取り直して言った。
「君たち人間は知らないだろうが、空模様というのは僕たちが塗っているんだよ」
「あっ・・・僕たちっていうのは、夕焼けマンとか朝焼けマンとか春一番マンとか、そんな芸術家のことだよ」
「なんていうか、その・・・親方の委託を受けて空を塗っているんだ」
「そうそう、僕たちが空を塗らないと空は真っ白なままなんだ・・」
なんだか、しどろもどろで話す星空マンは滑稽な感じだった。
その滑稽さに少年は、少し安心したようだった、そして言った。
「人間なのか・・・?」
星空マンは言う。
「元人間といったほうがいいかもしれん・・」
「じゃ、今は宇宙人?」少年は聞き返す。
「いや・・・今もやっぱり人間みたいなもんか・・僕にもよくわからんな!」
笑いながら星空マンは言ったので、少年もつられて少し笑った。

「君の持っているラピスラズリは僕のもんなんだ、プレアデスの星にする予定の石なんだ」
少年の持っている青い石を指差しながら星空マンは言った。
「これが・・・星?」
少年は手に持ったラピスラズリを見てつぶやいた。
「それを返してくれないか、早いとこ仕事を終わりたいんでね」
星空マンは、そう言いながら少年の前に手のひらをだした。
少年は青い石を渡そうとしたが、すぐにひっこめてしまった。
「うぅ・・・・ん・・なんだか疑っているんだね、無理もないか・・・」
少し考えて、星空マンは少年に言った。
「君も星を貼るのを手伝ってくれないか・・・・うん!そうだ、それがいい!」
星空マンはそう叫ぶと、少年が「いやだっ!」と叫ぶ暇もないくらいにすばやく少年を両手で抱きかかえ、ブランコに飛び乗った。

星空マンのブランコは、物凄い勢いでクリスマスイブの上空にせりあがっていく。
夜の冷たい空気を切っていくように、ブランコは少年の町の上空を登っていく。
町がまるで銀河の星ように輝いている。
町と夜空がさかさまになってしまったかのような光景に少年はビックリしたが、あまりのスピードに声も出ないくらいだ。
ナイトクルーズの飛行船ツェッペリン号の横を高速で横切り、綿飴のような雲の中をあっという間に通り過ぎ、風神雷神が仰天している顔を眺め、少年と星空マンの乗ったブランコは夜の空へドンドン上っていく。

そして、しだいにブランコの速度がユックリになったかと思うと、輝く星星が手で触れるくらい目の前に現れた。
「はい、終点です」
星空マンはそう言った。
少年は声がでないくらいだったが、首をこっくりと振って見せた。
終点には大きな作業台があり、その台の上には色とりどりの宝石や石がバケツの中に収められていた。
「もう時間が無いんだ、そのへんの宝石の入ったバケツをありったけ夜空に向かってばら撒いてくれないか!」
少年はうなずいて、そばにあったバケツを夜空に向かって大きく振った。
キラキラと星の輝きを発しながら、砂の数ほどの宝石が夜の空へばら撒かれていった。
それは夏の夜の花火のようでもあり、誕生日のクラッカーが飛び散る様にも似ていた。
大きなバケツの光り輝く星のクラッカー!
真っ暗だった夜空の部分には、にわかに星が輝き始めクリスマスの夜を素敵な夜にしてくれる。

「おっと、最後にはプレアデスの星をくっつけなくっちゃね!」
そういいながら、星空マンはいくつかのラビスラズリを夜空に貼り付けた。
「最後は、君の持っているラピスラズリだけだ・・・」
「・・・と思ったけど、そのラピスラズリは君に進呈しようじゃないか!」
「手伝ってくれたお礼だよ・・」
星空マンは、少年に向かってガッツポーズをした。
「ありがとう!」
少年もガッツポーズをしながら、星空マンにお礼を言った。
2人は「イエィッ!」と叫びながら、パチンと手のひらを合わせた。

「さぁ、君の家に帰るぞ!」
そう言うが早いか、また星空マンは少年を抱きかかえてブランコに乗った。
星空マンのブランコは、また元の少年の町へ急降下しながらアッというまに戻っていく。
しだいに速度がゆっくりになり、ブランコは少年の家に到着した。

もうそろそろ少年のお父さんが残業から帰ってくる時間だ。
そして、あと少しでクリスマスになる時間でもある。
星空マンは少年に言った。
「またな!」
少年は言った。
「またな!」
2人は同時にクスリッと笑った。

星空マンは、アッというまに煌く星空のかなたに消えていた。
少年の手には、少しひんやりとしたウルトラマリン色のラピスラズリの球体が残っていた。

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