小石を投げればヘルメットに当る

1970年の頃。
岐阜の街は、30%くらいの平和率だった。
なぜなら、今日の夜、デモ隊と機動隊の乱闘があるらしいのだ。

授業中、その噂は直ぐに耳に入った。
神田町通と平和通の交差点で、夜に、それはあるらしい・・・
歴史的なのかそうでないのか知らないが、俺はそれを観覧しようと思ったのだ。

学校か帰り、夕飯を食い、ショーでも見る気分で出かけた。
岐阜駅を過ぎたあたりで、同級生の宮浦二朗と、バッタリ会った。
「どこえ行くんやぁ」
宮浦は聞いてきた。
「デモ隊を見に行くんや!」
俺は、ちょっと嬉しそうに言った。
「俺もや!」
宮浦も、なんだか嬉しそうに答えた。
2人とも、わずかに心強い気持ちになったのは間違いないだろう。

しばらくすると、バトルが有るという、噂の交差点に着いた。
その辺りは、何故か静まりかえって、期待を裏切られたと思った・・・・
しかし、それは、間違いだったようだ。
交通規制されているのか、車の1台も行き交う姿もない。
薄暗い街頭がチカチカ点滅するその明かりの下に・・・
黒くかたまった2つの影が、交差点に2方向にわかれて、有った。

学生運動家達のデモ隊の一群と、機動隊の一群が・・・
一触触発の緊張した状況で、交差点に黒い巨大なオブジェのように存在していた。

どちらの塊も、100人くらいの塊だろうか・・・
しかし人数とは裏腹に、緊張の糸が、セキュリティーセンサーの赤外線の光線のように・・・
縦横無尽に飛び交い、いまにも大爆発を起こしそうだった。

俺たちのほかにも、デモ隊VS機動隊のバトルを見物に来た野次馬は、数十人いた。
そいつら野次馬も、その緊張に同調するかのように、妙に静かだった。
嵐の前の静けさ・・・というのは、こういうのを指す言葉なんだろう・・・・

20分くらい経過したが、まだ、硬直したまま黒い塊は動かない。
遠くから、パトカーのサイレンのウーウーと音が鳴っている。
30以上経過したが、まだそのままだ・・・
遠くから遠くから、数頭の犬の遠吠えがしていた。
まるで映画のようで、すべてがこの緊張感を演出しているようだった。

1時間もすると、野次馬どもが小声で話している・・
「なかなか、始まらんなぁ・・・」
周りからも、ボソボソ話声が聞こえ、緊張の糸が切れそうだった。

その時、俺は、何を思ったのか自分でも分からないが・・・
小豆大の小さな小石を、そのデモ隊と機動隊の方向に向けて投げつけたのだ。

暗いので、どこへ飛んでいったのか見えない。
カ〜ン!と、甲高い音が、ビルとビルの壁面に反響した。
カラカラカラ・・・・何かに当たりながら落下する音・・・
キッキッキッ・・・コンクリートの道路に落ちて転がっていく音だ。

あんな小さな小石が、思った以上に大きな反響音になった。
その音は、星星が光る夜の空にも木霊して・・・・・・
四方八方に張り巡らされた緊張の糸を、ブチッ!ブチッ!ブチッ!と切っていった!

友人の宮浦が、こちらを見ていた。
「なんか、ヤバクない・・・」
言葉にはしなかったが、彼の目がそう言っていた。
「ヤバイヨナ・・・」
俺の目も、そう言っていた。

その瞬間、ワァ〜〜!!と叫び声が上がった!
カン!カン!ガン!ガン!
ジュラルミンの盾に、投石があたる音!
ガスッ!ドカッ・・・・殴りあう音や、角棒が振り回され当たる音で、交差点は乱闘状態だ。

俺の投げた小石が合図となり、デモ隊と機動隊の乱闘が開始されてしまった!

ウォ〜〜〜〜ッ!!と・・・
乱闘の声や音は、一塊の巨大な音になった。
その音は、夜のビルや街路樹や野次馬を飲み込み、竜巻のように渦をまいているようだ。

バトルを眺めている野次馬の中には、乱闘に石を投げつけている奴も居る。
機動隊に当たるか、デモ隊に当たるか・・・
「ひどい奴もいたもんだ・・」
俺は思ったが、人のことは言えないぞ・・・・俺!

乱闘が激しくなり、野次馬の方にも押し寄せてきた。
ガスッ!ボスッ!ヘルメットを殴る音や蹴りを入れる音が近づき・・・
数人の機動隊とデモ隊が、歩道にあるフェンスを乗り越え、なだれ込んできた!

野次馬は、さぁ〜っ!とそれを避けるように逃げ始めた。
俺も、宮浦も、逃げようと思った。
その時、デモ隊の1人の男の目と、がっつり合ってしまったのだ。
闘争の文字がペンキで書かれたヘルメットと、汚いタオルのマスクの間のにある目とが、俺の視線を捕らえてしまった。

俺は、一瞬鳥肌が立った。
顔を見られたかもしれない・・・
石を投げたのが、ばれたのかもしれない・・・・
勝手にそう思いこんでしまった俺は、一目散にその場から退散した。



その後、そのデモ隊と機動隊のバトルが、どうなってしまったのか知らない。
顔を見られたと、勝手に勘違いしてしまった俺の数日間は、スリルとサスペンスの数日間だった。
町を歩いていると、突然、暗い路地から数人の男の手が伸びてきて、狭い路地に連れ込まれ、角棒でボコべコにされるのではないか・・・
あるいは、歩いている俺の前に、突然、機動隊の装甲車のような灰色のトラックが現れ、ジュラルミンの盾に囲い込まれ、ボコスカにされるのじゃないか・・・
妄想が妄想を掻き立て、町を歩くのも、スパイ映画の主人公にでもなった気分で、後ろが気になってしょうがなかった。

まぁ、考えてみれば、乱闘中で暗い中で、誰も野次馬の顔なんか憶えちゃいねぇ〜よなぁ・・・・

まぁ、おおむね平和な岐阜の街なのだが・・・・・
スリルとサスペンスの日々も、少しはあった。

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