セントラル劇場はエロスの香り


1970年の頃。
岐阜の街は、まあまあそこそこ平和だった。

URCレコードが常時買えるオワリ屋楽器店と、映画館の柳ヶ瀬劇場の間を抜けると、それがある。
細い路地を抜けるきると、突然にセントラル劇場が出現する。
いわゆる、ストリップ劇場である。
芝居小屋のような建築物で、会館の前には、踊り子のセクシーな写真が貼ってある。
今日のメインのショーなのか、ショッキング・ピンクで派手に描かれた踊り子の名前と絵の立看板も立っている。
「石井あゆみ」「松山きっこ」「秋川リサ子」・・・・・
聞いたような名前だが、はなはだしく胡散臭い!!

当時の看板は、すべて手書きのハンドメイドである。
看板の描き手によって、踊り子の顔が美人になったり、それなりしかならなかったり・・・・・
入り口近くの写真を見ると、けっこうなオネーさんばかりに見えるが、看板は若々しい美女になっていたりもした。

市内にストリップ劇場は3館ほど存在したが、この劇場が一番有名だった。
誰が作ったのか知らないが、有名な電機メーカーのCMソングの替え歌で・・・・・
♪ストリップはセントラルよ〜♪♪
♪まんまるお乳に桃色パンツ〜♪♪
なんて歌が、小学校の頃から、このセントラル劇場のテーマソングとして伝わっていた。

セントラル劇場には、高校生の間に伝わる伝説的噂が存在した。
伝説といっても、他愛ないものであったが・・・・
劇場の東側に、20Cmほどの隙間が有る。
そこからショーが終わった全裸の踊り子が一瞬見れる、というものだった。
伝説でもあり、噂でもあるので、真偽のほどは定かでない。



その日は、同級生の村上と平井で、その伝説的噂をたしかめよう・・という段取りのなってしまった。
どういうきっかけだったのか、たいして重要ではない。
青春は、エロスにはトッテモ積極的なのだ!

学校が終わると、3人はオワリ屋楽器店の前に集まった。
「今日、ほんとうに行くのか・・・?」
村上が、少し気後れした様子で言った。
「絶対に行くぞっ!」
平井が、強い口調で言った。
「そうだ、行こう、行こう!」
俺も、積極的に言った。

なんだかんだと言いながら、細い路地を抜け、セントラル劇場の前に来た。
「東側の隙間だぞ・・・」
平井が、小声で言った。
その隙間は、本当にあった・・・・
建物と隣の建物の隙間であるが、同じ劇場の建物のようでもあった。
周りに誰もいないのを見はからって、俺たち3人はその隙間を除いたのた。

「暗くて、何も見えんなぁ・・・・」
平井が言った。
「・・・うぅ・・暗いな」
俺もつぶやいた・・・・
「やっぱ、嘘やないかなぁ・・・」
村上が後悔でもしてるかのように、ボソッと言った・・・・

「あんたら!何しとるのっ!」
その時、後ろでバリバリの岐阜弁で、女の声がした。
俺の背筋に、緊張の悪寒が疾走していった。
血の気が引くとは、この事を言うのである。

「・・・あわわ・・・・・」
声にならない声が、口からついて出た。
正真正銘、あたふたした。
「あんたらも、そこ覗いとったんやね!」
女は、少し強く、しかもシッカリ岐阜弁で俺たちに言った。

女の格好は、サンダル履きにコートをはおっていた。
おそらく、この劇場の踊り子だろう。
髪の毛はパーマをかけ、アイシャドウは濃く、口紅は派手に赤かった。
貼ってある写真より、もっと若い感じがした。

3人は、何も言えずに硬直したままだった。
顔色は、そうとう青くなっていたのだろう。
俺は、警察に連れていかれ、留置所にいれれらるという・・・・・
そんな妄想が、機関銃のように脳内を飛びかった。

女の目を見ないように、俺たちはユックリ後ずさりして・・・・
道の方向にズリズリ歩いていった。

「あんたら!待ちゃぁ!」
女は、俺たちを引き止めた。
(ヤバイっ!!)と思った。
俺の心臓の鼓動が異常に早くなり、全身が振動するようだった。

「ガム食べるかね・・・?」
女は、そう言うと、ポケットから3枚のガムを出し、俺たちに差し出した。
「・・・あっ・・食べます・・」
妙にうわずった高音の声で、俺は言った。
そして、女の手からガムを3枚もらい、平井と村上に渡した。

3人は、よっぽど悲惨で惨めそうな雰囲気を漂わせていたんだろう。
「学生は、こんなとこ来たらあかんよ!」
女は、先ほどのような責めるような感じではなく、やさしくさとすように言った。
俺たち3人は、小さく会釈して、お礼の言葉も言わず小走りに、その場を去った。



細い路地を抜けた俺たちは、ほっとして、顔を見合わせた。
平井と村上の目が、少し笑っていた。
俺も、妙に可笑しい気持ちになっていた。

女からもらったガムは、ペンギンと氷山の包み紙のミント味のガムだった。
ガムの包み紙を、服を脱がせるように剥がした。
そのとき唐突に、女の化粧の匂いと、コートの隙間から見えた乳房の隙間が頭に浮かんだ。

さっきは、驚いて思い出しもしなかったが・・・・
しっかり、見るところは見ていたようだ。
青春のエロスに、隙は無い・・・・・

ガムを口に入れたとき、俺は、妙にエロチックな気分になってしまった。
クチャクチャ咬むガムの味は、エロスの味だったかもしれない・・・・・

それから3人は、ああだこうだ雑談しながら歩いた。
いつも行くゼニヤの30円のコーヒーを飲んだ。
コーヒーとガムの味が一体になって変な味だったが、ガムは吐き出せないでいた。
クチャクチャ・・・ガムは口の中で、女の記憶と一緒に、伸びたり固まったりしている。

1時間ほどして、ゼニヤを出て、村上と平井と別れた。
ガムは、もう、味も無いのに、まだ吐き出せないでいる。
クチャクチャ・・・

吐き出そうかとしたが、なんだか急に勿体無いような気持ちになり・・・・
ゴクリと、そのガムの塊を飲み込んだ。
ガムと一緒に、エロチックな感覚も飲み込んでしまった気がした。

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